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生殖巣に到達した始原生殖細胞

【研究内容】

​多細胞生物の体を構成する細胞は、体細胞と生殖細胞の2種類に大きく分けることができ、体細胞は個体の恒常性を維持する働きが持ちますが、一世代限りの細胞集団です。一方で、生殖細胞は次世代を再生産することで種の連続性を維持し(種の連続性)、また生殖細胞で起こるゲノム情報の変化は時に種分化も引き起こします(種の多様性)。私たちの研究室では、ヒト、マウス、ヤモリ、アホロートル(ノッティンガム大学アンドリュー・ジョンソン博士との共同研究)ナメクジウオ(Yu博士(Academica Sinica、台湾)との共同研究)を実験材料に用いて、生殖細胞が持つ種の連続性と種の多様性をい生み出す仕組みの理解を目指し、以下の実験を遂行しております。

【マウス始原生殖細胞によるエピゲノムリプログラミング】

Seki Y et al., Development 2007, Dev. Biol. 2005

体を構成するすべての細胞はほぼ同じ遺伝情報を持っています。それぞれの細胞はDNAのメチル化に代表される「エピゲノム」と​呼ばれる化学修飾をゲノムに付加することで、細胞固有の遺伝子発現パターンを確立し、細胞分裂を超えてもその情報は維持されます。例えば神経細胞は、血球細胞特異的に発現する遺伝子を抑制性のゲノム修飾で抑制しているため、神経細胞は血球細胞へ分化することはできません。しがしながら、生殖細胞は卵・精子のような特殊化した細胞へ分化するために必要な遺伝子発現パターンを確立しつつ、受精後にすべての遺伝情報を再び活性化できる特殊な機構を持っていると考えられています。私たちは、これまでマウスを実験材料に用いて形成直後の始原生殖細胞(PGC)においてゲノムワイドなエピゲノム情報の再編成(DNA、H3K9me2の脱メチル化及びH3K27me3の高メチル化)が誘導されることを明らかにしてきました(図1)(Ohno et al, Development 2013, Seki et al., Development 2007, Dev. Biol. 2005)。現在、in vitroの再構築系を用いて始原生殖細胞によるエピゲノムリプログラミングを制御する分子基盤の同定及びその人為的制御による新規細胞初期化法の開発を目指しています。

図1. 始原生殖細胞によるエピゲノムリプログラミング

【生殖系列特異的転写制御因子PRDM14の機能解析】

始原生殖細胞でゲノムワイドなヒストンメチル化(H3K9me2, H3K27me3)レベルがダイナミックに変化します。そこでその分子基盤を明らかにするために、リシンメチル化の機能ドメインであるPR/SETドメインを持つ分子群の発現スクリーングを行い、始原細胞特異的に発現するPRドメイン因子PRDM14を同定しました。また、PRDM14のノックアウトマウスは見かけ上正常に生まれてきますが、雌・雄共に完全に不妊となることを突き止めました(Yamaji, Seki, Kurimoto et al., Nature Genetics 2008)。また、その後の機能解析によってPRDM14は能動的脱メチル化反応を介して、OCT3/4の標的領域への結合を促進することで、エピブラスト様細胞からES細胞への脱分化を誘導することを明らかにしました(Okashita et al., Stem Cell Reports 2016, Development 2014)。PRDM14は、標的遺伝子領域のクロマチン構造に応じて異なる機能(転写活性、DNA脱メチル化誘導、転写抑制)を使い分けています。現在、PRDM14の複合体解析を切り口に標的領域依存的な機能切り替え機構の解明を目指しています。

図2. PRDM14の発現と機能解析

【生殖細胞形成機構の動物種を超えた共通原理と種特異性】

​ 近年、ヒト始原生殖細胞の形成機構に関する研究によって、マウスとヒトでは生殖細胞形成に関わる分子基盤が異なることが分かりつつあります。しかしながら、ヒト胚を用いた遺伝子機能解析は倫理的に困難であり、また同じ霊長類のサルを用いた体系的な遺伝子機能解析も現実的ではありません。そこで、本研究室ではノッティンガム大学のAndrew Johnson博士の研究室との共同研究で、原始的な四肢動物の形質を残しているアホロートル(ウーパールーパー)の生殖細胞形成機構に着目しています。マウスとヒトでは保存されておらず、ヒトとアホロートルで保存されている生殖細胞形成機構に関わる分子群を幾つか同定しており、アホロートル胚を用いたin vivo解析とヒトiPS細胞を用いたin vitro解析を組み合わせた研究を今後展開していく予定です。

図3. 生殖細胞形成の動物種を超えた共通原理と種特異性の解明

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